うんちは健康のバロメーター
古くはドクタースランプに出てくる“うんちくん”や最近大ヒットした“うんこかん字ドリル”のように、子供には親しみやすい(?)“うんち”ですが、大人にとっては臭い、汚いと嫌われるイメージではないでしょうか。しかし、うんちを観察すると病気の診断に役立つことがあります。例えば色。健康なうんちは黄色から黄土色ですが、うんちの色が赤、黒、灰、緑になることがあります。赤は大腸がん、黒は胃潰瘍、灰は胆石、緑は感染性腸炎などの病気で見られます。硬さや形はどうでしょう。バナナのようなうんちを理想とされる方が多いようですが、少しくらい硬かったり柔らかかったりしても健康状態には問題ないことがほとんどです。しかし、コロコロの兎糞状だったり泥状便だったり、また、多量の粘液便が出るときには何か問題があるかも知れません。においも気になりますが、ほとんどは食べた食材の影響です。ただし、大腸がんや感染性腸炎では血生臭かったり腐敗臭がしたりすることがあるため、特別に異様な臭さのときには注意が必要です。では、排便の回数はどうでしょう。うんちは毎日出さなければいけないのでしょうか?
慢性便秘とは
便秘について定まった定義はなく、概ね排便回数が数日に一回程度に減少し排便困難に伴う腹部膨満感や残便感がある状態をいいます。我が国では慢性便秘症診療ガイドライン2017が作成され、「便秘症」の診断基準は、①排便の4分の1超の頻度で強くいきむ必要がある、②排便の4分の1超の頻度で兎糞状便あるいは硬便である、③排便の4分の1超の頻度で残便感を感じる、④排便の4分の1超の頻度で直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある、⑤排便の4分の1超の頻度で用手的な排便介助が必要である(摘便、会陰部圧迫など)、⑥自発的な排便回数が週に3回未満、の2つ以上の項目を満たすこととされています。また、「慢性」の診断基準は、6ケ月以上前から症状があり、最近3ケ月間は前記の基準を満たしていることとされています。
便秘の原因
原因がはっきりしているものには、器質性便秘、症候性便秘、薬剤性便秘があります。血液検査、レントゲン検査、大腸内視鏡検査などで調べる必要があります。
器質性便秘:大腸がんや大腸炎などによる狭窄、癒着で便が出にくくなっているもの
症候性便秘:いろいろな全身疾患には便秘になりやすいものがあります
- 糖尿病、甲状腺機能低下症、低カリウム血症、パーキンソン病など
薬剤性便秘:薬によっては腸の動きが悪くなるものがあります
- 抗コリン薬、抗うつ薬、コデイン散(咳止め)など
一方、原因がはっきりしないものを機能性便秘といいます。機能性便秘には、弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘があります。
機能性便秘
弛緩性便秘:腸内の活動が低下しているため便が出しにくくなっているもの
- 高齢者、出産後の女性や長期臥床者に多くみられる
- 便意はあるのにお腹がぽっこりと張ってしまう
- 筋力の低下や運動不足などの影響もある
- 内容物の停滞により水分吸収時間が増大して、糞便が硬くなり結腸内で糞便が円滑に移動しなくなる
痙攣性便秘:左側結腸の緊張が強く持続的な収縮(痙攣)を起こすため糞便の通過時間が延長しているもの
- 疲れや心理的ストレスなどによる自律神経の乱れが原因
- 過剰な収縮のため腹痛を伴うことが多い
直腸性便秘:直腸に便が到達してもうまく排便できないか、便意が生じないもの
- 骨盤底筋群の筋力低下、協調運動が障害や直腸内圧に対する感受性の低下が原因
- 子供や若い女性に多い
便が出やすい姿勢
直腸と肛門の角度が鈍角になるほど排便しやすくなります。両肘を太ももに置いてやや前傾になる姿勢が良いとされています。ロダンの“考える人”像をイメージして下さい。
食事療法
食事療法の話を始める前に、そもそも十分な便量がなければ便を出すことは出来ません。過度なダイエットや食事制限は控えてバランスの良い食事を規則正しく摂取するように心掛けて下さい。その上で、便秘の食事療法としては、食物繊維を多く含む食材を積極的に摂り入れるようにしましょう。食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。水溶性食物繊維には、腸内の善玉菌を増やす作用があります。不溶性食物繊維には、腸内で水分を吸収することで便量を増やし腸の動きを活発化させる作用があります。その他、ヨーグルトなどの発酵食品は腸内の悪玉菌の増殖を押さえ善玉菌を増やす効果があり整腸作用が期待されます。玉ねぎ、アスパラガスなどに含まれるオリゴ糖にも善玉菌を増やす効果があります。また、バナナ、しいたけ、ひじきなどに含まれるマグネシウムやオリーブオイルには腸の動きを助けて排便を促す効果があります。
一方、脱水状態は便が硬くなる原因になるため注意が必要です。便秘になってから水分を摂取しても遅いので、便秘気味の方は普段から細やかに水分を摂ることを習慣にして下さい。また、肉に含まれるタンパク質は腸内で悪玉菌を増やすため、肉を食べすぎると便秘になってしまうことがあります。肉を食べる時には野菜などと一緒にバランスよく食べるようにしましょう。その他、柿やお茶に含まれるタンニンは摂り過ぎると腸の動きが悪くなることがあるため便秘の方は注意して下さい。
日常生活
運動
腹筋を鍛える体操は下腹部太りの解消に効果的だけでなく、排便時に必要な腹圧を高めることにもつながります。腹筋体操が苦手な方は、おへそのまわりを“の”の字を描くよう時計回りにマッサージすることで腸管の動きを促してみて下さい。また、普段からジョギングなどの全身運動を継続して行うことも大切です。
排便習慣
毎日排便しなければいけないわけではありませんが、毎朝、短い時間で構わないのでトイレに座って体に習慣付けしてあげるのも良いでしょう。また、日中、便意を感じたら我慢してはいけません。どんなに忙しくても排便するようにして下さい。我慢しても次に都合よく便意があるとは限りません。その間に水分が吸収され便が硬くなる原因にもなります。
その他
ストレスは便秘の原因です。十分な休養と睡眠に心掛けて下さい。便を出そうとして無理にいきんで排便する習慣はいけません。痔の原因になるだけでなく、直腸粘膜脱症候群(直腸粘膜または直腸壁全層が肛門の外に出ることによって種々の症状が引き起こる病態)を生じて痛んだり出血することがあります。
薬物治療
食事療法や日常生活の工夫でも改善しない時には下剤を使っていきます。最初は非刺激性の酸化マグネシウム(マグミットなど)を試して下さい。ただし、高齢者や腎機能低下症の方は高マグネシウム血症の副作用に注意が必要です。効果不十分であれば刺激性下剤を頓服で追加していきます。一般的なものは、センノシド(プルゼニド、ヨーデルなど)とピコスルファート(ラキソベロンなど)です。これらの薬には習慣性があるため長期に使い続けると効果がなくなってくることがあります。直ぐの排便を望まれる時には、グリセリン浣腸や直腸刺激性下剤である坐剤を使用します。近年、新しいタイプの下剤が発売されました。一つはルピプロストン(アミティーザ)で、小腸のクロライド・チャネルを活性化して腸管内への水分分泌などを促進し排便を促す作用があります。もう一つはエロビキシバット水和物(グーフィス)で、胆汁酸トランスポーターを阻害し回腸末端での胆汁酸の再吸収を抑制することで、大腸管腔内に流入する胆汁酸の量を増加させます。胆汁酸には大腸管腔内の水分分泌増量作用と消化管運動の促進作用があり便秘を解消していきます。更に、現在は便秘型過敏性腸症候群の治療薬であるリナクロチド(リンゼス)が、便秘症にも処方可能となる予定です。この薬は、腸管の表面にあるグアニル酸シクラーゼC受容体に結合することで大腸管内の水分を増やし腸管の動きを活性化させて便秘を解消させます。
終わりに
便秘について概説しましたがお分かりいただけましたか。“美味しく食べて健康に”、どこかのキャッチ・フレーズのようですが、便秘になると食事も入らなくなってしまいます。日頃から快食快便に心掛けて健康な生活を送って下さい。