炎症性腸疾患について

炎症性腸疾患とは?

小腸、大腸を中心に炎症が生じている病気のことですが、一般的には、潰瘍性大腸炎とクローン病のことを指しています。

潰瘍性大腸炎とは?

直腸から口側大腸に連続して炎症が広がる特徴のある慢性の大腸炎です。炎症は粘膜を中心に生じており深い潰瘍を形成することはあまりありません。下痢、血便、腹痛といった自覚症状を多く認めます。発病の原因はよく分かっていません。10歳代から20歳代での発病が多い病気で男女差はありません。最近では高齢者での発病も増えています。我が国の潰瘍性大腸炎患者数は年々増えてきており既に20万人を超えていると推測されています。潰瘍性大腸炎は大腸の病気ですが、まれに十二指腸にも炎症病変が出現することがあります。ほかにも、皮膚疾患、関節症状などの腸管外合併症を認めることがあります。

潰瘍性大腸炎の治療

薬物療法が基本になります。治療は病状がひどいとき(活動期)と病状が落ち着いているとき(寛解期)を分けて考える必要があります。活動期でも病状が軽度であれば十分量のメサラジン製剤を用いることで病状を落ち着かせることができます。中等度以上の活動期の病態になればステロイドが治療薬としてよく使用されます。ステロイドの治療効果が不十分なとき、ステロイドの使用が困難なとき、あるいは病状がさらに重症なときには血球成分除去療法や生物学的製剤、タクロリムス製剤を用いることになります。寛解期の治療はメサラジン製剤の維持療法が中心になります。しかし、再燃を繰り返すような難治例では免疫調節剤を併用することがあります。また、生物学的製剤で寛解導入を行なった場合には、寛解維持を目的として継続して使用していきます。劇症型や内科的治療抵抗例では外科的手術が必要になります。治療が不十分で慢性炎症が持続した場合、発病後10年の経過で大腸癌の発症頻度が増加してくると言われています。寛解状態、特に粘膜治癒(大腸粘膜に炎症がない状態)の状態を維持すれば大腸癌の発症頻度は減らすことができると考えられていますので、普段からの治療の積み重ねが大切になってきます。発病後7〜8年以上経過した患者さんには症状に関係なく年一回の内視鏡検査を受けられることが推奨されています。

治療のまとめ

  1. 薬物療法
    メサラジン製剤、ステロイド、免疫調節剤、生物学的製剤、など
  2. 血球成分除去療法
  3. 外科的治療

日常生活の注意

活動期には腸管の刺激をさけるため低脂肪低残渣食を取るように心がけます。飲酒はいけません。また、病状に応じた身体の安静も必要になってきます。一方、寛解期には特に制限するものはありませんが、過度のストレス、暴飲暴食、風邪は再燃の引き金になることがあるため注意が必要です。風邪薬、鎮痛剤は病状を悪化させることがありますので主治医とよく相談して下さい。

クローン病とは?

口から肛門までを消化管といいます。この消化管のどこにでも炎症や潰瘍が生じる原因不明の病気です。主に、小腸と大腸に潰瘍が生じることが多く認められます。深い潰瘍を生じることが多く、突然の穿孔によって発病することもあります。また、何度も炎症を繰り返すことで狭窄を生じてしまい、腸閉塞の状態で見つかることも少なくありません。難治性の口内炎や痔瘻をきっかけに診断されることもあります。10歳代から20歳代での発病が多く認められ男性にやや多い傾向があります。年々患者数は増加しており、現在、我が国には約4万人の患者さんが存在すると推測されています。

クローン病の治療

栄養療法、薬物療法、外科手術があります。発病の原因は分かっていませんが、何らかの形で食事が関与していることが推測されています。また、発病後も食事の影響を受けやすく、高脂肪食は病気を悪化させることが分かっています。動物性や植物性に関わらず脂肪の取り過ぎは注意が必要で、脂肪摂取を制限し一定量の成分栄養剤を摂取することが寛解導入や寛解維持に有効です(栄養療法)。薬物療法としては、メサラジン製剤、ステロイド、免疫調節剤のほか、最近では新薬である生物学的製剤を用いた治療が行われるようになってきていますが絶対的なものは確立されていません。副作用を含めて一長一短はありますが、病状を悪化させないよう適切な治療薬を選択することが大切です。治療が不十分で再燃を繰り返していくと狭窄、穿孔、出血などの腸管合併症が生じやすくなります。穿孔例はもちろんのこと、高度狭窄例でも外科的手術が必要になります。ただし、手術をして完治するわけではなく手術後の内科治療が不十分であれば再発していくため、何度も手術を受けておられる患者さんも少なくありません。従って、できるだけ手術を受けないように、きちっとした治療を行っていくことが大切です。

治療のまとめ

  1. 薬物療法
    メサラジン製剤、ステロイド、免疫調節剤、生物学的製剤、など
  2. 栄養療法
  3. 血球成分除去療法
  4. 外科的治療

日常生活の注意

活動期だけでなく寛解期の食事制限が重要です。普段から低脂肪低残渣食に努めて下さい。また、喫煙は病気を悪化させることが分かっているため早めに禁煙して下さい。

炎症性腸疾患と妊娠

潰瘍性大腸炎、クローン病のお母さんに異常妊娠の確率が高くなることはありません。また、弱い赤ちゃんが生まれる確率が高くなることもありません。現在の治療で用いられている薬剤の多くは、妊娠、出産、授乳に関して制限されることがなくなっています。ただ、一部の治療薬で注意が必要になるものもあるため、挙児を希望される方はあらかじめ主治医とよく相談されておかれたら良いでしょう。

炎症性腸疾患は遺伝する病気ではありません

潰瘍性大腸炎、クローン病は遺伝病ではありません。全ての病気は病気になりやすい体質(素因)と環境によって発病するため、潰瘍性大腸炎、クローン病にもなりやすい体質はあると考えられています。ただ、明らかなことは分かっていないためお子様への影響を心配される必要はありません。

炎症性腸疾患の診断に必要な検査

血液検査、便検査、消化管内視鏡検査、腹部エコー検査、消化管X線造影検査、CT検査・MRI検査など