炎症性腸疾患(IBD)患者さんの新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)対策について  

今日、私たちはかつて経験したことのない新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)に脅かされ、感染への不安、重症化への不安を抱えながらの生活を強いられています。基礎疾患がある方や高齢者の方の重症化の報告があると一層不安が増すこともあるかと思います。
 当院では多くの炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎とクローン病の総称)患者さんを治療しています。IBD患者さんが、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)感染、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)対策で注意しなければいけないことは何なのでしょうか。我が国のIBD専門医で作られた特別作業班(JAPN IBD COVID-19 IBD Taskforce)が、世界からの報告を基に作成した指針があるので抜粋して紹介します。

※ SARS-CoV-2:新型コロナウィルスの名称
※ COVID-19:SARS-CoV-2感染により症状を有するもの。感染しても症状のないときはSARS-CoV-2感染と呼ばれる。

Q. 炎症性腸疾患(IBD)患者さんのCOVID-19のリスクについて
A. IBD患者さんのCOVID-19のリスクが一般の方より高くなるという報告はありません。     

Q. 高齢者IBD患者さんは重症化しやすいのでしょうか?
A. 一般の方と同様、年齢が高くなるに連れて(60歳以上)IBD患者さんのCOVID-19重症化率が上昇すると考えられています。 

Q. 免疫調節剤や生物学的製剤治療は全て中止すべきなのでしょうか?
A. IBD患者さんの全身状態が安定していることが最も重要です。従って、免疫調節剤や生物学的製剤治療をいきなり中止する必要はありません。自己判断で治療を中断しないようにしてください。

Q. 5-ASA製剤(ペンタサ、アサコール、リアルダなど)投与はCOVID-19重症化に関連するのでしょうか?
A. 現在までに、5-ASA製剤投与が細菌・ウィルス感染リスクを上昇させるという報告はありません。5-ASA製剤がSARS-CoV-2感染リスクもしくはCOVID-19の重症化リスクを上げる可能性は極めて低いと考えます。従って、COVID-19患者と濃厚接触、あるいはCOVID-19を発症しても5-ASA製剤を中止する必要はありません。

Q. 全身性ステロイド投与中のIBD患者さんでは、COVID-19重症化リスクは高くなるのでしょうか?
A. 現段階では、ステロイド投与がCOVID-19の臨床経過にどのような影響を及すか明確な報告はありません。ただ、ステロイド治療中の患者さんでCOVID-19重症化症例が多い傾向がみられています。しかし、これはステロイド使用がCOVID-19の重症化の因子となることを直接示しているものではないため慎重に解釈する必要があります。

Q. チオプリン製剤などの免疫調節薬服用中のIBD患者さんでは、COVID-19重症化リスクは高くなるのでしょうか?
A. 症状が安定している患者さんが免疫調節薬を中止する必要はありません。安易に薬剤の中止をしないようにしてください。

Q. 生物学的製剤投与中のIBD患者さんではCOVID-19重症化リスクは高くなるのでしょうか?
A. 抗TNFα抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニーなど)単独投与患者さんで重症化リスクが高くなるという報告はありません(重症化率が低い傾向があるとの報告もあります)。しかし、免疫調節剤との併用では重症化率がやや上昇しています。  抗IL-12/23 p40抗体製剤(ステラーラ)や抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)投与が呼吸器感染症を含む重症感染症リスクを高めるという報告はありません。従って、臨床的寛解状態にある患者さんが、これらの薬剤の中断を考慮する必要はありません。

Q. JAK阻害剤(ゼルヤンツ)投与中のIBD患者さんでは、COVID-19重症化のリスクは高くなるのでしょうか?
A. 症例が少なく定まった見解がありません。内服治療を継続して消化器症状が悪化することなく呼吸器症状が改善した症例も報告されています。

おわりに

IBD患者さんのSARS-CoV-2感染リスクやCOVID-19重症化リスクが高くなるということはありません。COVID-19重症化リスクについてはまだまだ未知な部分が多いのですが、寛解期のIBD患者さんは治療を継続して寛解を維持していくことが、また、活動期のIBD患者さんは速やかに寛解導入を目指していくことが重症化の予防につながると考えられています。しかし、COVID-19患者と濃厚接触した場合やCOVID-19の疑わしい症状が出たときには、速やかに主治医に相談しその後の治療について指示を受けてください。
 今回紹介した内容は現時点での見解であり、今後世界からの報告が蓄積していくことで異なった考え方になっていく可能性があることはご了解ください。
 COVID-19に対する特効薬やSARS-CoV-2ワクチンが存在しない現在では、SARS-CoV-2に感染しないように努めること、他人に感染させないように努めることが最も大切です。“「3つの密」の回避”、“マスクの着用”、 “石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒の励行” 、“ 不要不急の外出の自粛”に努めてください。 (新型コロナウィルスの予防法、厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-1)